平日に休んだ。
昨晩から体調不良だったが、休んだらすぐに熱も下がった。
でも昨晩からもう休もうと決めていた節もある。
仮病みたいで、罪悪感があった。
おそらく世の人々はこれを仮病というのだろう。
自分の有給なのに、そう感じさせてくる日本社会をディスりつつ、自分の行為を正当化する。
病院の帰り、街をぶらつく。
銀行で用があったので丁度よかった。
服をみたりなんかする。
だけど何か満たされない。
街行く人がみんなそんな感じに映る。
お馴染みの同じ顔だ。
曇った昼下がりの街は、過去の栄光に縋るゾンビたちの時間だ。
安いラーメン屋に入る。
本当はラーメンなんて食べたいわけじゃないのに。
あの彼は仕事サボリだろうか。
スーツを着た営業のようだが、もうずっと店に入り浸っている。
あの男女は不倫だろうか。
いい年して仲が良すぎる男女を見るたびいつも勘繰ってしまう。
あの人は仕事してるのだろうか。
ジャージ姿のおじさんが昼からラーメンをつまみに酒を飲んでいた。
以前、仕事を長いこと休んでいるときに、昼飯がてら飲んでいたことがあった。
その頃僕は、髭が伸び放題で自分を卑下し放題だった。
不安な気持ちが朝から寝るまでずうっとあった。
朝起きた瞬間からずうっとだった。
感情があまり無くて、でも不安だけが表面にべっとりくっ付いたような毎日だった。
昼に病院帰りでブラブラしていると、いたたまれない気持ちになった。
みんな仕事をしている時間だ。
平日に呼び出せる人も、相手をしてくれる人も居なかった。
そして路地に入ると隠れ家のように、14時頃から開いている飲み屋があった。
営業努力が皆無な、ただただ存在している店。
その時間の客層は僕にぴったりだった。
人生に少しくたびれている人たちの溜まり場だった。
少し年上の太った男性をよく見かけた。
毎回同じ服で、やる気なくうすら汚い雰囲気をまとっていた。
僕は仲良くなれたらいいなと思った。
互いの世に対する不安や不満を、酒と共に語り紛らわしたかった。
しかし最後まで、挨拶すら交わすことはなかった。
語ることがないと、どんどん酔いだけが進む。
4杯目くらいから、ああ全く何をやっているのだという後悔と嫌悪の念が沸き起こった。
立ち止まるにしても、辞めるにしても、進むにしても。
何に対しても興味が抱けないのだよな、と。
青春とも、壮年とも、どこにも属せない、そんな心境だった。
そしてそれをモラトリアムというには、だいぶ遅すぎるのも分かっていた。
いずれにしても、近いうちに何か結論は出さねばならん。
色々と自分の思っていた自分とはかけ離れていた。
体調不良。
同棲生活の破綻。
一切連絡のない職場の先輩後輩たち。
宗教勧誘のために飯に誘ってくる上司。
本音を語る場所が無かった。
悲しさも無かった。
感情が無かった。
ただ金だけが減っていった。
病院の診察料。
交通費。
効いているとは思えない薬代。
家賃。
公共料金。
食費。
ローン。
傷病手当だけじゃ全く賄えなかった。
そして残高が減ると、逆算するようになる。
この生活ができるのもあと何ヶ月かと。
とりあえず動く必要がある。
それは、現実問題として、一番大きな問題だった。
体調が悪い、それは自分でも知っている。
でも、金が無くなるってのはそれと関係無く進んでいく。
普通にどんどん迫り来るリミット。
いつしか、それだけが僕を支配するようになった。
かわいそう。
大変だね。
神様がくれたお休みなんだよ。
自由に言う人たちのそれは、確かにそうかもしれない。
でもそれとは別に、リアルなリミットはどんどん近づいてくる。
保険を解約した。
要らない物を売却した。
親に無心をしようか。
バイトをしようか。
どうする、どうする、、、。
いつの間にか自分の心境に、金を稼ぐためにどうにか動こうというアクティブさが現れだした。
恥ずかしかったのかもしれない。
期待に反して上手くできずにプレッシャーに潰された。
仕事とプライベート、共に理想と現実のギャップによるストレスで体調不良になったのだと思う。
そんな自分を正当化するためには、しばらく休むことが必要だったのではなかろうか。
会社に対するアピールだ。
世間に対するアピールだ。
自分に対するアピールだ。
そして今度は復帰するにも正当化しなきゃならない。
本当はまだチョットだめなんだけどもさ。
お金も無いし取りあえずは仕方ないしね、と。
苦笑して、心配されながら、ちょっと気弱を演じて。
本当にダサいなぁ。
そのダサさこそが自分の本当のスペックだったんだろう。
それを見ないで生きてきた。
フィジカルもメンタルも弱いダサ坊がもう一人の自分だった。
そんな相棒と共にやってくのがこれからなんだ。

共に荒野を歩いていくぜ。
レールからはもう外れた。
今まで乗っていた列車はもう過ぎ去った。
だけど周りには、結構歩いている人もいたりする。
ルールはもう変わった。
歩くのがしんどければ休憩したり、甘えてただ乗りすればいいことを学んだ。
しばらくしたら次の列車もあるだろう。
そして意外と歩くのも楽しい。
だからしばらく歩こう。
だからしばらく歩こう。
いつの日か、歩くことでしか解らなかった道を見つけるのだと誓いながら。