ドリアン助川と言えば、ハタ坊のおでん
アラフォー世代で学生時代にラジオをよく聴いていた人にとって、ドリアン助川(現:明川哲也)さんと言えば土曜の夜に放送していた若者のお悩み相談番組であった「正義のラジオ・ジャンベルジャン!」のラジオパーソナリティか、「叫ぶ詩人の会」というバンドのリーダーという印象が強いかと思う。
あと「金髪先生」という、色んな洋楽バンドを紹介する深夜のテレビ番組も好きだった。
その彼が書いた本を偶然見つけた。
当時からバンドマン、テレビ・ラジオパーソナリティ、更にその前にはアメリカ横断ウルトラクイズの構成作家もしていた彼の多才さをリスペクトしつつも、ラジオ番組が終わってから存在を見かけることもなくなって早10数年。
僕は当時から今に至るまで、彼の活動を把握している訳でもないし、当時も彼個人の熱烈なファンというわけでもなかった。
だけども当時の懐かしさや本の内容への興味もあって手にとってみたところ非常に良い本と出合うことができた。
ドリアン助川著『多摩川物語』
多摩川のそばで繰り広げられる人たちの、とある日常を切り取った短編集。
短編一つ一つは別々の話であるのに、読み進めるうちにそれぞれ少しずつ繋がっていることが分かる。
例えば、「三姉妹」という話に出てくる古本屋の青年・洋平さんがよく通う大幸運食堂は、「花丼」という話の舞台になっているし、そこを手伝っている奥さんは「黒猫のミーコ」に出てくる雅代さんであるように。
それぞれの物語はどれも少し切なくて、読後に心が温かい気持ちになる。
今をただ生きるだけでいいんだと、愚直に頑張ることだって悪くないんだぞ、と思えてくる。
途中ホッコリとして最後にホロリとさせるのはドリアンさんの筆力なんだろう。
電車で読んでいて泣きそうになった。
ここがオススメな点
1.人生の目立たないドラマ
ドラマというと大々的なものを指すことが多いけれど、日々の目立たない事だからこそドラマになるものだなあと感じた。
昭和っぽさ、古きよき時代っぽさ、少年時代や青春時代っぽい誰にでもあったあのころを切り取ったお話が一つ一つ素敵だ。
それらの控えめなエピソードが逆に馴染み深くて感情移入できる。
2.多摩川を舞台にした自然溢れる描写
多摩川に群生する鳥や自然がリアルで、素敵だと思った。
3.不器用に、愚直に生きてる人たちの描写
今の時代、不器用に真面目にしか生きられない人って、逆にディスられたりする寂しさがある。
努力の方向が間違っているとか、本当の問題から逃げているとか言われてしまう時がある。
でもやっぱり、現実には上手に生きられない人は沢山いると思う。
誰しもそういう一面を持っていると思っているし。
そういう人たちにこそ読んでほしいと思った。
今のままでも大丈夫だって事を、物語を通して少しでも感じることができるんじゃないだろうか。
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