[http://photo credit: Last night's Strawberry moon via photopin (license):title]
赤い月の夜がある。
赤くて低くて、なんだか大きい月の夜がある。
小さい頃の事、そんな時は何故だか不安になった。
何か悪い事が起こるのではないのか、と。
そして時折、母親もいつかは死んでしまうのだと考えると怖くなった。
明るい母親は唯一、家の中で輝く太陽のような存在だった。
彼女が子宮の病気になって入院した時、毎日神様にお願いをした。
不安で夜眠れずにいると、音を立てながら道路を掃除する車が家の脇を通った。
2段ベッドから降りて、窓から暗い外を見ていた。
世の中には色んな役割をする車があって、夜遅くにも働いている人がいるのだと思った。
その頃、狭い集合住宅に住んでいた。
僕の通う小学校へは、ほとんどの生徒がその集合住宅からだった。
でも、その中でも確実に貧富の差があった。
純粋が故にその現実を見逃さなかった。
外には普通に野良猫がいた時代だった。
団地の裏に飛べなくなった鳩がいて、みんなで自転車置き場に隠して飼っていた。
ファミコンのカセットをめちゃくちゃ持ってるだけの理由で人気の奴がいた。
タバコ屋の婆ちゃんの財布から金を毎日抜きまくり、学校で大問題になった奴がいた。
その金で駄菓子を食いまくっていた僕たちがいた。
あの鳩の存在は、いつしかすっかり忘れていた。
集合住宅の中心にあった大きなスーパーはもう潰れてなくなってしまった。
一生存在すると思っていたものが無くなっていく。
毎日通っていたおもちゃ屋のおじいさんも死んでしまった。
今でも連絡を取ってる、あの頃の友人はいない。
結構仲良くしていた同級生は、数年前に痴漢で逮捕されたとニュースで知った。
あんなにずっと出たいと思っていた実家も、引っ越してもうそこには無い。
僕はもう、おそらくあの町に帰ることは無い。